保険×AIの基本
保険代理店・保険募集人が生成AIを使うときの注意点顧客情報・社内ルール・募集文書
「AIに、お客様の情報を入れてもいいのだろうか?」
ChatGPTやClaude Codeを仕事で使い始めると、多くの方がここで手が止まります。止まるのは、正しい感覚です。保険の仕事で扱う情報は、それだけ重いからです。
先にお断りしておくと、私は保険募集人ではありません。ただ、この業界に25年以上いて、来店型保険ショップ23店舗の代理店を経営していた時期もあります。いまは非エンジニアの立場で、AIと一緒に仕事の道具を作っています。だからこそ、AIの便利さより先に、守るものの話をしておきたいのです。
この記事の結論
- 使う前に、所属先(保険会社・代理店)のAI利用ルールを確かめる。代理店の経営者なら、そのルールを決める側です。
- お客様の個人情報・契約情報は、入れない前提で使う。病歴などの健康情報は、法律で特に慎重な扱いが求められる情報です。
- AIの答えは下書き。保険料・保障内容・税金・制度の数字は、一次資料で確かめてから使う。
- お客様に出す文面や資料は、AIが作ったものでも、所属先の審査・承認の手続きに沿って使う。
- Claude CodeのようなAIエージェントは、読んだファイルの中身をAIに送る。お客様の情報が入ったフォルダでは使わない。
まず、所属先のルールを確かめる
保険募集人の仕事は、所属する保険会社や代理店のルールの中で行うものです。AIも例外ではありません。AIを使ってよいか、どのサービスなら使ってよいか、何を入力してよいかは、所属先ごとに違います。
使い始める前に、次の3つを確かめてください。
- AIを業務に使ってよいか
- どのサービスを、どのアカウントで使ってよいか(会社の契約か、個人のアカウントか)
- 入力してよい情報と、入力してはいけない情報はどれか
「ルールがない」は「何でも入れてよい」ではありません
ルールが見当たらないときは、自分の判断で進めず、代理店の責任者や保険会社の担当者に確認してください。確認した日付と内容をメモに残しておくと、あとで説明を求められたときに困りません。
お客様の個人情報は、入れない前提で使う
個人情報保護委員会は、2023年6月2日に、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しています。事業者が個人情報を含む内容をAIに入力するときは、利用目的の範囲内かを十分に確かめること。本人の同意なく個人データを入力し、それが答えを出す以外の目的で扱われた場合には、法律に違反するおそれがあること。こうした点が示されています。
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
保険の仕事で扱う情報は、とりわけ重いものです。氏名・住所・生年月日・家族構成・年収・証券番号。そして、病歴などの健康状態は、個人情報保護法で「要配慮個人情報」とされ、特に慎重な扱いが求められます。
私は、AIに入れる情報を次のように分けて考えることをおすすめしています。
| 入れやすい情報 | 入れない情報 |
|---|---|
| 自分で書いた文章・自分の考え方 | お客様の氏名・連絡先・生年月日 |
| 公開されている制度や法律の情報 | 証券番号・契約内容 |
| 架空のデータ(名前も数字も作ったもの) | 病歴・健康状態 |
| 誰のことか分からない形にした件数などの数字(所属先のルールの範囲で) | 面談の録音や記録そのもの |
| 自分の仕事の手順・チェックリスト | 保険会社の社外秘の資料・ID・パスワード |
表は横にスクロールできます。
もう1つ知っておきたいのは、入力した内容がAIの学習に使われるかどうかは、サービスやプラン、設定によって違うということです。たとえばAnthropic社の公式ドキュメント(2026年9月時点)では、Claudeの個人向けプラン(Free・Pro・Max)は学習に使ってよいかを利用者が設定で選ぶ仕組みで、法人向けの契約(Team・Enterprise・API)では、原則として学習に使わないと説明されています。
出典:Claude Code Docs「Data usage」
ただし、学習に使われない設定にしても、入力した内容はサービスを提供する会社に送られて処理されます。設定は、お客様の情報を入れてよい理由にはなりません。判断の順番は、いつも「所属先のルールが先」です。
AIの答えは「下書き」。数字と制度は一次資料で確かめる
AIは、もっともらしい間違いを、自信たっぷりに書くことがあります。
たとえば「遺族年金はいくらもらえますか」と聞けば、それらしい金額が返ってきます。でも、その金額の前提、つまり加入していた年金の種類、お子さんの年齢、収入の条件などが、目の前のお客様と合っているかは、AIには分かりません。制度が改正されていれば、古い情報のまま答えることもあります。
私自身、AIと一緒にWebサイトや社内の管理システムを作ってきましたが、AIが「できました」と言ったものを確かめると動いていなかった、ということは何度もありました。道具づくりなら、動かせばすぐに分かります。けれど、お客様への説明で数字を間違えれば、取り返しがつきません。
確かめる先の例
- 保険料・保障内容:保険会社の資料・約款・設計書
- 公的保障・税金:日本年金機構・国税庁などの公的機関のサイト
- 所属先の決まりごと:所属先の規程・マニュアル
お客様に出すものは、所属先の手続きを通す
パンフレット、提案書、チラシ、ホームページ、SNSの投稿、お客様へのメッセージ。お客様の目に触れるものは、AIで下書きした場合でも、所属先が定める審査・承認の手続きに沿って使います。手続きの中身は、保険会社や代理店によって違います。
AIが作る比較表や説明文は、事実と違っていたり、誤解を招く書き方になっていたりすることがあります。保険の募集には、保険業法をはじめとするルールがあります。その確認を受けるのはAIではなく、出した人と、その所属先です。
LINEやメールの文面も同じです。AIに任せてよいのは、文面の下書きまで。お客様へ送る前に、自分の目で確かめ、所属先のルールに沿って使ってください。
AIエージェントを使うときに、もう1つ気をつけること
ChatGPTのようにチャットで使うAIは、自分が入力したものだけを受け取ります。一方、Claude CodeのようなAIエージェントは、パソコンの中のファイルを自分で読んで作業を進めます。
Claude Codeの公式ドキュメントでも、読み込んだファイルの中身は、AIの処理のためにAnthropic社へ送られると説明されています。つまり、お客様の情報が入ったフォルダでAIエージェントを動かせば、その情報を渡したのと同じになり得ます。
講座でお伝えする使い方は、次の4つです。
- AIに作業させる専用のフォルダを作り、お客様の情報が入ったフォルダでは起動しない
- 道具を作るときは、架空のデータで作り、架空のデータで動作を確かめる
- 読ませたくないファイルは、設定で読めないようにしておく
- 慣れるまでは、ファイルの変更や実行のたびに確認を求める設定のまま使う
保険募集人向けAI講座では、第1回で、入れてよい情報と入れない情報の線を一緒に引いてから、道具づくりを始めます。
代理店のAI利用ルールに入れておきたい7項目
ここからは、保険代理店の経営者の方に向けたお話です。
損害保険の代理店では、日本損害保険協会の「代理店業務品質評価制度」が2026年度から本格的に運用されています。代理店が自ら業務を点検し、改善していくことが求められる流れです。AIの使い方も、口頭の「気をつけてね」ではなく、文書にしておくと、点検のときにも、所属募集人に説明するときにも役に立ちます。
参考:日本損害保険協会「代理店業務品質評価を行う業界共通の枠組み」
| 項目 | 決めておくこと |
|---|---|
| 1. 使ってよいサービス | 会社として認めるAIサービスと、その契約・設定(学習に使われない設定か など) |
| 2. アカウント | 会社の契約で使うか、個人のアカウントを認めるか。退職や異動のときの扱い |
| 3. 入れてよい情報 | 入れてよい情報・入れない情報の一覧(この記事の表をたたき台に) |
| 4. お客様に出すもの | AIで下書きした文面・資料を、募集文書の審査・承認の流れにどう乗せるか |
| 5. 記録 | 何の仕事にAIを使ったかを、どこまで残すか |
| 6. 困ったとき | 誤って情報を入れてしまったときの報告先と手順 |
| 7. 見直し | AIのサービスは変わり続けるので、見直す時期(例:半年に1回) |
表は横にスクロールできます。
これは、ルールづくりのたたき台です。最終的な内容は、委託元の保険会社の指針や、必要に応じて専門家の助言を踏まえて決めてください。
そして、もう1つ。私は、ルールを作る人こそ、先に自分の仕事でAIを使ってみるべきだと考えています。一度も使ったことのない人が作るルールは、どうしても「全部禁止」か「なんとなく許可」に寄ってしまうからです。経営者ご自身の仕事で1つ道具を作ってみると、どこが危なくて、どこは安心して任せられるのかが、肌感覚で分かります。
守るものを決めてから、使う
AIは、よく切れる包丁に似ています。切れるからこそ、まな板をどこに置くか、何を切ってよくて何を切ってはいけないかを、先に決めておく。それさえ決まっていれば、これほど頼りになる道具はありません。
まずは所属先のルールを確かめ、お客様の情報を入れない形で、自分の仕事の小さな作業から試してみてください。
よくある質問
お客様の名前を消せば、AIに入れても大丈夫ですか?
名前を消しても、年齢・職業・家族構成・病歴などの組み合わせで、誰のことか分かってしまう場合があります。消したから大丈夫と自分で判断せず、所属先のルールに従ってください。迷うときは、架空のデータに置きかえて使うのが安全です。
学習に使われない設定にすれば、お客様の情報を入れてもよいですか?
設定は大切ですが、それだけで入れてよいことにはなりません。学習に使われなくても、入力した内容はサービスを提供する会社に送られて処理されます。入れてよいかどうかは、所属先の規程とAI利用の許可に従って判断してください。
所属先にAIのルールがありません。どうすればいいですか?
自分の判断で進めず、代理店の責任者や保険会社の担当者に確認してください。保険代理店の経営者の方は、この記事の「代理店のAI利用ルールに入れておきたい7項目」を、ルールづくりのたたき台に使ってください。
※この記事は、2026年9月時点の情報をもとにしています。法令やサービスの内容は変わることがあります。個別のケースの判断は、所属先や専門家にご確認ください。本記事は法的な助言ではありません。